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fu4276486.txt
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画像ファイル名:1732180584206.jpg-(28440 B)
28440 B24/11/21(木)18:16:24No.1255376439そうだねx5 19:52頃消えます
 ツナ缶工場の朝は早い――――。

 遠洋マグロ漁船「第七トリアイナ丸」から運ばれて来たばかりのコンテナが開くと、霜におおわれた巨大な冷凍マグロが一斉にすべり出してくる。
 フロアを埋め尽くす大量のマグロの間を、かろやかに跳びはねているのはこのシズオカ工場の責任者、CSペロ74号。彼女は跳びあるきながら、まっ白に凍ったマグロのいくつかに太いペンでさっと印をつけていく。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
124/11/21(木)18:16:38No.1255376497+
 ――それは何を?
「食堂におろす分です。外皮がきれいでキズの少ないものは、ステーキや煮物にします。最高のものが獲れた時は、オルカに送ることもあるんですよ」

 ペロ74はかつて、オルカのカフェでアシスタントを務めたこともあるという精鋭である。彼女の指揮のもと、作業員たちが鉄鉤をあやつって印のついたマグロをすばやく運び出し、ついで残った分を大きなケージへ放り込んでいく。
「濾過処理した海水を使って、ゆっくり解凍します。だいたい八時間くらいでしょうか」
 解凍用ケージにぎっしりと詰め込まれた、無数のマグロたち。最高でもなければきれいでもないかれらは、価値のない存在なのか……といえば、決してそんなことはない。これから二昼夜をかけて、彼らはわれわれに最もなじみ深い、あの食べ物に生まれ変わるのだ。
224/11/21(木)18:16:57No.1255376565+
〈マイオルカTV24時間密着ドキュメント 『ツナ缶工場24時』〉

 夕方――――。
 大きなケージが傾くにつれ、半日かけて解凍されたマグロが水とともにあふれ出してくる。みずみずしい弾力を取り戻した魚体は押し合い、弾み合いしながらローラーコンベアに乗り、大勢の作業員が待ち構えている解体フロアへと流れ込む。
 エプロン姿の作業員たちはめいめい一本ずつ、マチェットのような巨大な包丁を手にしている。流れてきたマグロを素早く捕まえた彼らは両手で力一杯に包丁をふるい、まず頭を切り落とす。それから、くるりと180度回して尾を落とす。次にエプロンのホルダーからもっと細身で肉厚の包丁をとりだし、腹びれの周辺を削ぐように切りとる。腹がフタのように外れると中に手を入れ、内臓をそぎ出してバケツに落とす。さらにもう一本、ノコギリのような細かい刃の付いた包丁に持ち替えて、背びれと胸びれを切り取るともうすっかり魚ではなく、切り身になる前の魚肉のできあがりだ。
324/11/21(木)18:17:34No.1255376738+
 マグロは作業員の手の中で一時も静止せず、流れるように次のコンベアに送られる。あざやかな手際のかれらはみな、非戦闘用バイオロイドや退役した元戦闘員だ。そのうちの一人、ブラウニー60338に話を聞いてみた。

 ――ここではどれくらい働いているのですか?
「二年目っす。ようやく一人で解体につかせてもらえるようになったっす」
 汗を拭きながら彼女は、手袋を外して指を見せてくれた。親指と人差し指の付け根に、大きな手術痕が走る。「始めたての頃、いちど自分の手を切っちゃって。いやー痛かったっす」
 あっけらかんと笑うブラウニー。その足元では三角形をした無数のマグロの頭が、別のコンベアに乗って流れていく。
「頭は食堂で使うっす。マグロのかぶと焼きはここの名物で、めちゃくちゃ美味いっすよ。尻尾はスープをとるのに使って、あと内臓とヒレはたしか肥料になるっす」説明をしてくれながら、内臓の入ったバケツを勢いよく蹴り飛ばし、新しいバケツと入れ替えるブラウニー。
「それからこのお腹のところはハラモっていって、アブラが多いから別の蒸し工程にかけるっす。でも……」
424/11/21(木)18:18:06No.1255376890+
 彼女はニッカリと笑い、ハラモと呼ばれた腹びれ周辺の部分を一切れとると、ポケットナイフを器用に使ってすばやく皮をはいだ。淡いピンク色の切り身になったハラモを二つに切って、片方をぽいと頬張る。
「刺身で食べるとちょー美味いっす! 半分どうぞっす」
 ――こ、これは!
 口に入れて驚いた。脂のたっぷりと乗った、大トロの味。噛むほどにとろけていくようだ。
「ときどきオヤツにつまむっす。これがあるから解体はやめられないっす」
「……ある程度は黙認しますが、ほどほどにしてくださいね」
「げっ」
 フロア長に見つかってしまった。あわてて仕事に戻ったブラウニーの代わりに、彼女……ミス・セーフティにインタビューを続けることにする。
 ――あなたは、ここでどれくらい?
「三年になります。この工場が稼働したときから勤めています」
 ――それでは聞きたいのですが、特にこの工場を選んで復興した理由はなんでしょう? この地域はかつて水産業がさかんで、他にもいくつものツナ缶工場跡があるようです。
524/11/21(木)18:18:22No.1255376948+
「海沿いで場所がちょうどよかった、というのもありますが……この工場がバイオロイド労働を前提とした作りだったからです。つまり、あまり機械化されていなくて、再起動が楽だったんですね。近隣のほかの工場はもっと精密機械が多いぶん、鉄虫の破壊もひどくて……」
 ――なるほど。では、再稼働してからの、この工場ならではの特徴のようなものはありますか?
「そうですね、これは工場長の方針なんですが、できるだけ分業をしないで、工程の最初から最後までを全員が追うようにしています。効率は多少落ちますが、製品に対する責任感が生まれるので」
 インタビューに答えながらも、彼女の目は時折するどく作業台の上をはしる。さっと手が伸びて、流れていく一尾のマグロをつかまえた。
 よく見ると、胸びれの付け根がわずかに残っている。さっきとは別のブラウニーが、ぺこぺこ頭を下げながらそれを受け取っていった。
「それに、せっかくツナ缶工場で働いているのに、やることが毎日マグロの頭を切り落とすだけでは、張り合いがないでしょう?」
 そう言って彼女は笑い、また素早く作業台の上を見渡した。
624/11/21(木)18:18:36No.1255377016+
 解体が終わったマグロは、蒸煮(じょうしゃ)……すなわち、蒸し器にかけられる。
 家庭で使うようなものとは違う。鋼鉄製の、立って中を歩き回れるほど巨大な窯に、マグロがぎっしり乗ったトレーを何段にも重ねた台車を運び込み、そのまま蒸すのだ。
 蒸し担当のレプリコン6215は分厚い扉を閉めて、六カ所のボルトを指さし確認しながらしっかりと止める。
「高温高圧の蒸気を使いますから……前にブラウニーがボルトをかけ忘れて、ひどいことになって」
 レプリコンが示した扉には、「必ずボルトを確認すること!六カ所!」と赤字で書かれた大きな紙が貼り付けられていた。
 蒸煮にかける時間はは四時間ほど、レプリコンの言葉どおり、高温の蒸気で芯までしっかり熱を通す。四時間後、窯の扉を開けると、何とも美味そうな香りのする湯気があふれ出してきた。
「運び出しはかならず三人以上で作業します。安全のためでもありますが、ここでつまみ食いする不届き者もいるので、相互監視させるんです」
724/11/21(木)18:18:56No.1255377091+
 蒸し上がったマグロは放冷室へ移動させて冷ます。肉に負担をかけないよう、大きなファンでゆっくりと風をあて、蒸煮よりも長い時間をかける。凍ったマグロが搬入されたのは早朝。放冷が終わった今は、ほぼ真夜中だ。
 きれいに蒸されたマグロはふたたびコンベアに乗せられ、作業台の上を進んでいく。左右には作業員が並び、流れていく身から皮をはぎ、大きな身を左右に割って、血合いや骨などを取り除いていく。「身割り」と呼ばれる工程である。
「ここんとこもうまいっすよ。血合いの煮付けは食堂の二番人気メニューっす」
 先ほどのブラウニー64223がふたたび作業について、せっせとピーラーでマグロの皮をはいでいる。……さすがにつまみ食いは控えているようだ。
 ブロック状になったマグロの身は、さらに血管や小骨、筋肉内部の内出血などを削りとって綺麗にする「磨き」という工程を経て、ついに完全な精肉になる。大きさも太さもちょうど大人のすねくらい。ややピンク色がかった淡いクリーム色。ツナ缶の中身の、あの色だ。
824/11/21(木)18:19:08No.1255377137+
 コンベアの最後では、ペロ工場長が待ち構えている。目をこらして大量に流れてくるマグロを見張り、時には身をそっと触り、手にとって、いくつかを脇にある別のコンベアに移していく。この別のコンベアの行く先については、後ほど触れることにしよう。
 本流の方のコンベアの終着点は、巨大なネジの内側のような形をしたほぐし機である。ここに吸い込まれたマグロは数十本のロッドによってバラバラにほぐされ、我々のよく知るあのツナ缶の中身そっくりのフレークになって出てくる。出口側のコンベアにはまた数名の作業員が控え、小骨や釣り針などの異物が残っていないかしっかり目を光らせてから、肉詰め工程へ移っていく。
924/11/21(木)18:20:07No.1255377392+
 さて、ここでようやく缶が出てくる。
 このシズオカ工場では、別のフロアで缶そのものも作っている。印刷ずみの大きなアルミ板を円形に打ち抜き、絞り加工で缶詰の形に仕上げる工程はすべて機械で行う。さらに別の機械で薄板を丸く打ち抜き、アルミチップから整形したタブを取り付けて、フタも作る。
 当たり前のことだが缶そのものは食品ではないため、いつ作って保管しておいても問題はない。だがここでは、マグロの入荷に合わせてそのロットの缶製作をはじめるという。
「どのタイミングで製造しても問題ない以上、食品ラインの稼働タイミングに揃えるのが最も合理的です。光熱費の無駄を減らし、不測の事態による人員やスケジュールの変動に柔軟に対応でき、何より寂しくありません」
 缶製造ラインを管理するフォールンモデルはそう語った。
1024/11/21(木)18:20:17No.1255377439+
 この缶製造ラインと、精肉ラインとが合流するのがフィラー装置である。一台で一部屋まるごとの大きさがあるこのマシンの内部ではコンベア、ローラー、カッター、そして精密センサーが見事に強調して働き、ツナフレークがぴったり定量ずつ缶に詰め込まれ、一秒に三個という速さで送り出されてくる。
 中身を詰められた缶はふたたびコンベアで検量工程へ送られる。マシンの誤差で中身が多すぎたり、少なすぎたりした缶はここでピックアップされ、手作業で分量を調整する。ツナ缶の中身を人の手で直接扱う最後の工程であり、このエリアの担当者にはベテランだけが選ばれる。
「ごくごく稀に、ここで異物が見つかることもあるっす。ピックアップされた重量エラー缶だけじゃなく、できるだけ流れてる缶全部に目配りするようにしてるっすね」
 担当のブラウニー49891は、落ちついた口調でそう語ってくれた。
1124/11/21(木)18:20:36No.1255377524+
長いので続き
fu4276486.txt
1224/11/21(木)18:26:23No.1255379013そうだねx2
まとめ
fu4276487.txt
なんと今回で90話です
いつも感想くれてありがとうございます
1324/11/21(木)18:28:43No.1255379642そうだねx3
よくもまあ色んなジャンルの話書けるなあ…
1424/11/21(木)18:40:25No.1255382821+
切り身状のってソリッドって言うんだ…
1524/11/21(木)18:41:37No.1255383180そうだねx5
初々しいペロちゃんいいね…
1624/11/21(木)18:45:56No.1255384508+
羽衣フーズの工場かな?
1724/11/21(木)18:51:39No.1255386363+
ツナ缶食いたくなるな…
1824/11/21(木)18:58:37No.1255388524+
この高品質ツナ缶でも通貨に見えるのかアイツには…
1924/11/21(木)19:02:06No.1255389622そうだねx4
>なんと今回で90話です
なそ
にん
たまにスレ見かけて読んでるけどどれも読み応えあって大好きだよ!
まとめ分もありがたい…
2024/11/21(木)19:02:37No.1255389758+
うまそうすぎる…
2124/11/21(木)19:03:26No.1255390022+
汚いフェザーはさあ…
2224/11/21(木)19:07:21No.1255391197+
YouTubeでも見れそうなくらい健全だ…
2324/11/21(木)19:10:03No.1255392072+
>>なんと今回で90話です
こんなに長く頑張ってくれてたのか…
いつもありがとう
2424/11/21(木)19:23:58No.1255396621+
こうなったら100話まで書きたいが流石にネタが尽きてきた
リクとかあったらいただけると嬉しいです
2524/11/21(木)19:26:07No.1255397314+
運転手とかやってるバイオロイドっていないもんなあ全部交通機関自動だし
2624/11/21(木)19:26:23No.1255397391そうだねx1
オルカ下着事情
2724/11/21(木)19:31:20No.1255399063+
TとかCとかGとかIとかAとかいろんなのがあるんだな
2824/11/21(木)19:36:26No.1255400810+
>運転手とかやってるバイオロイドっていないもんなあ全部交通機関自動だし
汽車とか保存鉄道とか動かしてる博物館のバイオロイドとかいないのかね
2924/11/21(木)19:38:34No.1255401518+
バイオロイドたちが自身の専門じゃない作業を選んで働くの良いよね
3024/11/21(木)19:43:19No.1255403155+
バイオロイドたちの娯楽やペット事情はどうなっているのだろう?
エラちゃんがやっているようなテーブルゲームとかスチオンはあるようだけどそういう娯楽を仕事じゃなくて自身の楽しみとして遊んでいる姿を見たい
3124/11/21(木)19:51:30No.1255406145+
ありがとう!
時間かるかもしれないけど書かせてもらいます

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