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画像ファイル名:1756546407771.jpg-(330590 B)
330590 B25/08/30(土)18:33:27 長いです。ごめんしてNo.1348352520そうだねx7 20:03頃消えます
「次のリハーサルまでに演じられないのであれば、別の台本を用意します」
サキコのその言葉に、目の前が赤く染まったように感じた。
身体中の血が頭に集まったみたいに熱く、残された手足は震えるほど冷たくて。
手のひらに爪が食い込んだ感触が、他人事のように感じる。
「にゃむ、聞いていまして?」
スタジオで劇の稽古中、アタシはまたアモーリスを演じることが出来なかった。
アタシ一人だけが、未だまともにセリフすら言えない。
「祥ちゃん、まだリハだし…」
宥めるようなウイコの言葉に、サキコはゆっくりと首を横に振った。
その仰々しい動きに苛立つ。
「だからこそですわ。出来るまで見守るなどと言う生温い選択肢は私達にありません」
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
125/08/30(土)18:33:42No.1348352578+
「…確かに。豊川さんや若葉さんは兎も角、台本を変えるなら私は余裕が欲しいですね」
「海鈴ちゃんまで…」
「私なりに本気でやってますので」
「あ、そ、そうだよね…」
ウイコの声が弱々しくなって、そうして静かになる。
アタシは視線の先、決して目を逸らすことなくサキコを睨みつける。
それに気付いたサキコは、ただアタシを見つめ返してくる。
「……本気ってわけ?」
「ええ。もちろんですわ」
以前、駅のホームで口論になった時とはまるで違う、彼女のまっすぐな瞳。
アタシの視線に怯んだ様子は少しもなく、サキコは超然とした態度を崩さない。
どうしてか、アタシの方が見下ろされているような気さえしてくる。
「──ッ!」
耐えきれず目を逸らしたのは、アタシの方だった。
225/08/30(土)18:33:55No.1348352650+
何一つ、アタシは言い返せない。
今ここで出来るとすら言えない。
ただただ悔しくて歯噛みすることしか、アタシには残されていなかった。
「…では、本日はここまで。私は打ち合わせがあるので先に失礼致します」
「あ、祥ちゃん…」
話は終わりと、サキコは一人スタジオを出て行った。
スタジオの扉が閉まると、取り残されたような苦しさを感じた。
ただ練習不足だとヒステリックに叫ばれたあの時は、そんなこと微塵も感じなかったのに。
「今日はこれで終わりのようですね」
「えっ…あ、うん。そうだね…」
「三角さん達はまだ残られますか」
「え、えと…」
気遣うようにこちらを一瞥するウイコにイライラする。
アタシはまた、目線を逸らした。
一刻も早くこの場を後にしたくて、壁際に置いてあった荷物を屈んで手に取る。
325/08/30(土)18:34:07No.1348352705+
「──にゃむ、帰るの」
ゾワッとした。
その声はまっすぐにアタシの耳に届いて、逸らし続けていたはずの目線は吸い込まれるように声の方を向く。
ムーコが、アタシをまっすぐに見ていた。
「…練習、もう終わりでしょ」
彼女の瞳に、儚さも無邪気さもそこにはない。
アタシのすべてを焼き尽くした凄みだけが在って、見られているとザワザワと毛が逆立つような感覚に陥る。
それを悟られなくて、アタシは小馬鹿にするように笑みを浮かべた。
「なに? それとも練習付き合ってくれるわけ?」
「帰るんじゃなかった?」
「ッ!」
425/08/30(土)18:34:19No.1348352787+
瞬間、頭の中が真っ白になって。
音が鳴るんじゃないかってくらい、アタシは強く噛みしめていた。
「なるほど、居残り練習というやつですか。いいでしょう」
「え、えーと…私はその、次の仕事の時間までなら…」
「……アタシは帰るから!」
乱暴に荷物を持ってアタシは一人、スタジオを出た。
今はただ、あの場所に居たくなかった。
惨めな自分を見せつけられるだけのあの場所には。
525/08/30(土)18:34:31No.1348352859+
🐈️
「はぁ…」
溜息を吐く。アタシの部屋だから別にいいけど。
なのに思ってたより情けなさが身に沁みて、脚本を持っているのが億劫になる。
サキコに"最後通告”を言い渡された翌日。
ムキになって台本を読んでみても、何も変わったりしない。
その程度のことで、あの子が消えてくれたりしない。
「そんなことアタシが一番分かってる…」
本の中で踊るキャラクター、言葉、情感。
何度も何度も読み返しては思い描き、アタシなりに「アモーリス」を形作って。
そこまで出来ているはずなのに、一人の時ですら台詞が上手く言えない。
演じようとするたびに、あの子の姿が脳裏に浮かぶ。
625/08/30(土)18:34:42No.1348352917+
あの子に圧倒された時の痛みが胸を貫く。
逃げ出したいほどの衝撃。
なのにどうしようもなく惹き付けられる。
どうしようもなく思い描いてしまう。
縛られたみたいに目が離せなくて、身動きすら取れない。
こんな呪いみたいな愛なんて知りたくなかった。
「…な〜んて」
サキコの作る華美な台詞が感染ってしまったらしい。
アタシは台本を手近な机に置いて、小さく息を吐いた。
溜息じゃなく、気持ちを切り替えるための呼吸。
「甘かもんでも飲んで気分転換しよ…」
冷蔵庫になにか入ってたっけ。無ければ近場のコンビニにでも行こう。
そう思って立ち上がった時、インターホンが鳴った。
荷物が届く予定も、誰か訪ねてくる予定もない。
なにか嫌な予感がしつつ、モニターを見る。
725/08/30(土)18:34:52No.1348352972+
「…うわ、また来た」
案の定、ウミコが映っていた。
インターホンを操作して、アタシは思いっきり嫌そうな声で対応する。
第一声はもちろん、
「帰って」
『祐天寺さん、開けてください』
「留守にしてま〜す」
『…おや、そうでしたか。では帰ってくるのを待っています』
「……」
このまま一日中エントランスで立たせてやろうか。
おかげさまで今日も仕事がないし。
『え、ええと…海鈴ちゃん、にゃむちゃん居るよね?』
「え!? ウイコ!?」
825/08/30(土)18:35:04No.1348353020+
予想外の声が聞こえてきて、アタシは思わずモニター凝視した。
ウミコの隣から、気まずそうな笑顔を浮かべているウイコがひょこっと入り込んできた。
『その…こんにちは、にゃむちゃん』
「……はぁ〜〜」
アタシは盛大な溜息を吐いて、エントランスの解錠ボタンを押した。
925/08/30(土)18:35:15No.1348353082+
🐈️
「お、お邪魔します…」
おずおずとアタシの部屋に踏み入るウイコ。
その後に、ブーツを脱ぎ終わったウミコがスタスタと躊躇なく入ってくる。
「わっ、部屋綺麗だね。動画撮ってるもんね」
「私は来たのは2回目です」
「ウミコ、カウントしないでくれる?」
「あ、あはは…」
ウイコはそわそわと興味深そうな様子で部屋を見渡している。
なんだかこっちまで落ち着かなくなってきそうだから、ソファに座るよう促した。
アタシは腕を組み、それはもう不機嫌そうな顔で二人を見ろす。
実際、機嫌よくないけど。
「で? なんで来たの?」
二人はお互いの顔を見合わせた。
なにその反応。
1025/08/30(土)18:35:27No.1348353138+
「海鈴ちゃんに呼ばれて…」
「三角さんが付き合うと言っていたので」
「…なんでどっちも主体性がないわけ〜?」
道中、なんにも話し合いせずに来たとでも言うんだろうか。
この二人ならあながち間違いでもない気がしてきた。
眉間にシワを寄せるアタシを、ウミコがじっと見つめてきた。
「練習、付き合います」
「はぁ?」
「同じバンドメンバーですから」
なんだかキラキラした顔のウミコから、アタシは目線だけ動かしてウイコへ通訳を求めた。
本当はアタシの中でなんとなく検討がついていることに、悔しさを感じながら。
「にゃむちゃん、昨日は聞き逃しちゃったかもしれないけど…私達で一緒に演技の練習をしようって」
「それでわざわざアタシの部屋まで来たって?」
「う、うん…」
困ったように笑うウイコに、アタシはどんな顔をしたらいいか分からなくなった。
1125/08/30(土)18:35:40No.1348353218+
「にゃむちゃん、演技で祥ちゃんに指摘されたことあんまり無かったから」
アタシの顔を伺うような、心配するような顔。
いや、ウイコなりにアタシを見て本当に心配しているんだろう。
そっちのほうがアタシには意外なんだけど。
「…アタシにも色々あるってだけ」
ムズムズしてイライラして、胸の奥がカッと熱くなったような感覚。
言いようのない居心地の悪さ、と言ってもいい。
だからアタシは不機嫌な顔のまま、はぁ、と溜息を吐いてみる。
「もう間に合ってるんで、そういうの」
「大船に乗ったつもりで任せてください」
「ウミコ、真顔でボケるのやめてよね」
「私は真面目ですが」
「余計怖いんだけど〜」
1225/08/30(土)18:35:51No.1348353277+
テキトーな理由をつけて追い返そう。
そう腹積もりしたところで、小さな笑い声が聞こえた。
「ご、ごめん…笑っちゃって」
アタシの視線に気付いて、恥ずかしそうにウイコが俯く。
なんだか久しぶりにウイコが笑ったような気がした。
…そもそもあんまり笑ってるところを見たこと無いけど。
「三角さん、私は真面目ですが」
「ちょっ、ウザ絡みするのやめなって」
「ふ、ふふっ…」
1325/08/30(土)18:36:05No.1348353363+
🐈️
「あ〜〜〜〜〜〜〜…」
結局あの後も居座ろうとする二人を部屋から追い出し、ついでにコンビニで"気分転換"のためのあれこれを買ってきた。
おっきいサイズのラテと豚骨ラーメン、それからダメ押しにフルーツサンド。
一度に食べたら絶対に顔がむくむから、もうよっぽどじゃないとやらない。
でも今日はやらないと気がすまなかった。
食べ終わってソファに寝っ転がって、だらだらスマホを眺めてなんにも考えない。
自棄になったわけじゃない。
これは気分転換。
「……はぁ」
そうして気付いたら、日も暮れて夜になっていた。
何にも出来なくて、何もかも無駄にしたような気がしてまた気分が重たくなる。
せっかく気分転換したはずなのに。
1425/08/30(土)18:36:15No.1348353430+
「もう寝てるかな…」
もう少しくらい栄養が欲しくて、アタシはアプリの電話帳を眺めた。
声が聞きたいけど、今電話しちゃったら弱音を吐いてしまいそうで躊躇してしまう。
アタシの中で今モヤモヤしているものは、聞かせたくなかった。
「あ!」
なのに、そんなアタシの気持ちを見透かしたみたいに電話がかかってきて。
スマホに大きく表示された『おかーさん』の文字に泣きそうになる。
ぐっと我慢して通話に出た。
「どぎゃんしたと?」
『別になんでんなかばい。にゃむ、元気にしとったかな〜って』
「おかーちゃん…」
『今日はいっそう元気無かねぇ』
いかん、泣きそう。
声を聞いただけなのに、我慢しようとしてた一切合切を吐き出したくなる。
1525/08/30(土)18:36:25No.1348353482+
「…上手ういかんし、はがいかことばっかりでつらか〜!」
『あらら〜踏まれてるねえ』
「そうばい〜。沢山踏まれていっちょん立ち上がれんかも〜」
電話口からおかーちゃんのケラケラと笑う声が聞こえてきて、どうしようもなく気が緩む。
しっかしなっせ、と言ってくれる優しい声。
おかーちゃんの声がまるで、頭を撫でてくれるみたいに聞こえて。
『踏まれた分だけしっか根ば張って、にゃむは今どんどん強うなってる。そうやって大きく育ってく姿を見るのが、何よりも楽しみばい』
「おか〜ちゃん…」
優しくて、でもちょっぴり厳しくて。なのにおかーちゃんの言葉は全然嫌じゃない。
アタシを想ってくれる言葉がじんわり沁みて、胸の内が温かくなる。
その時ふと、昼間に訪ねてきた二人の顔が浮かんで、アタシはすぐにかき消した。
あの時感じたのはそういうんじゃないし。
もっと、恥とか悔しさとそういうので。
考えないようにして、電話口のおかーちゃんの声に集中する。
1625/08/30(土)18:36:37No.1348353563+
『ちゃんと出たにゃむのグッズ全部買うて、リビングに飾っとるばい』
「え〜? ほんなこつ?」
『上の子らにも買いに行ってもろうたりしてね。最初は神棚に飾っとったばってん、多くなって専用ん場所作ったったい』
「あは、嬉しか〜」
『でもにゃむが着とったジャージは高うてびっくりしたねえ』
「えっ、あれ買うたと?」
『いま着とるばい』
「ええ〜!?」
ブランドコラボのトラックスーツを着ているおかーちゃんの姿が浮かんで、吹き出してしまう。
けど、似合ってるといいな。
急におかーちゃんの顔を見たくなってたまらなってきた。
1725/08/30(土)18:36:50No.1348353632+
だからアタシは、アタシしか居ない部屋でも勝ち気に笑って見せる。
「…おかーちゃん、ありがと」
負けたくないって、改めて思う。
アタシのためだけじゃない、こんなにも応援してくれる家族のためにも、絶対に。
「いつか飾りきれんくらい沢山のアタシのグッズで、麦畑にしてやるけんね!」
その意気たい、と笑ってくれるおかーちゃん。
ちょっとだけ涙がこぼれてしまった。
1825/08/30(土)18:37:03No.1348353698+
🐈️
放課後、ムーコの家に全員集まって音合わせの日。
アタシは集合時間よりも少し早く着いて、いつもの半地下室へ通してもらう。
ムーコはまだ帰宅していないらしく、静まり返ったその場所には誰もいなかった。
そこに居てほしかったのか、居なくてホッとしたのか、自分でも答えが出せない。
「アタシは逃げん…」
決めたんだ。Ave Mujicaでもう一度「アモーリス」になると。
運命共同体だの、人生を預けるだの大袈裟だし、きっといつかまたバンドが終わる時が来る。
けど今のアタシには、ここしか居場所がないから。
踏み台としか思っていなかったこの役にしがみついているのが滑稽なのは、アタシが一番分かってる。
それでも逃げない。
目指して、挑んで、そうして何度も踏まれて強くなってやる。
きっと先日のおかーちゃんとの電話のせいだろう。
メラメラってアタシの内側で燃えて、全員集まるまで待つのが勿体なく感じる。
一人でドラムを叩いてもいいけど、逃げないと決めた以上もっとふさわしいものがある。
1925/08/30(土)18:37:15No.1348353772+
カバンから台本を取り出し、ページを捲る。
女神の騎士となる「アモーリス」の、新たな物語。
軽薄で挑発的で、その胸の内には「死の騎士」への憧憬と劣等感を隠し持ち苦悩するキャラクター。
──世界が壊れる音、俺には聴こえない…。
まるでアタシを見透かすような、ピッタリの役。
以前ならサキコからの嫌がらせみたいに思えて文句の一つも言っていたかもしれない。
…まあ、今のアタシじゃそんなこと言えるわけないけど。
でもそのせいでキャラクターを理解しやすくて、悔しいけど今のアタシにとってもピッタリだと思う。
息を吐いて、吸って。
誰も居ないけど、構わずに台詞を読み上げてみる。
「生まれ変わるためには必要だって分かってる。
 でも愛も無くなるの? 悲しみは? 恐れは? 忘却は?」
次の台詞を口にしようとして、アタシは決して届かない空へ手を伸ばしていた。
触れられない。届かない。けれど諦められない。
「死は?」
2025/08/30(土)18:37:27No.1348353840+
「──恐れるなかれ」
その時だった。
どうしたって惹き付けられてしまう声が背後から聞こえてきたのは。
「ご自分の姿を、よくご覧になって」
軽やかな足取りで、月ノ森の制服を着たムーコが階段を降りてきた。
アタシが触れたはずのその顔は、誰でもない涼やかな表情を浮かべている。
「…付き合ってくれるわけ?」
アタシのことなんか一瞥もせずギターへ手を伸ばす彼女に、硬い声で言葉を投げかけた。
さっきムーコが返してきた台詞。
あれは「モーティス」のものではなく、「オブリビオニス」のものだったから。
もしかしたら、ムーコにとってただの"お遊び"なのかもしれない。
それでも、突きつけられた挑発を黙って見過ごすなんて、アタシには出来なかった。
2125/08/30(土)18:37:42No.1348353914+
「…分かった」
ムーコは目を閉じて、仕方ないとでも言わんばかりに呟いた。
アタシを迎え入れるように両手を広げて、まっすぐに見返してくる。
「どうぞ、アモーリス」
悔しくて歯噛みした。
アタシはまだ、ムーコに合わせてもらうしかない。
アタシの演技じゃ、ムーコの想定を崩すことすら出来ない。
キッとムーコを睨んだ。
遥か高みへ、空にいるようなムーコを見据えるように。
「負くるわけにはいかんとたいね!」
アタシはもう二度と、絶対に目を逸らさない。
真正面から、壊れるまで手を伸ばし続ける。
ムーコが目を逸らせないほど大きく強くなってやる。
アタシは麦なんだ。
2225/08/30(土)18:37:53No.1348353970+
🐈️
「──この黄昏に、私は君臨し続ける!」
事務所のスタジオでの劇の稽古。
サキコが台本の最後の台詞を言い放ち、場の空気がふっと弛緩する。
滞り無く、稽古は進んだ。
一番胸をなでおろしたのは多分、いや間違いなくアタシだろう。
絶対に悟られないようツンとしたままだけど。
「やりましたね、祐天寺さん」
真っ先に声をかけてくるウミコに、アタシはハイハイと返した。
ちょっとくらい笑えばまだ親近感が湧くだろうに、スンとした表情のままで労われても嬉しくない。
おまけに腕まで組んで頷いてるし。
「これが完全復活というやつでしょうか」
「そうやってテキトーに褒めようとするのやめたら?」
「え」
なんでいっちょ前にショック受けた顔してるんだウミコは。
2325/08/30(土)18:38:03No.1348354036+
固まってるウミコを見かねたウイコが、慌てつつにこやかな顔で割り込んでくる。
「あ〜その、にゃむちゃん、本当にスランプを脱したんだね!」
「…スランプ、ね」
「? 違った?」
端から見たら、きっとそう映るんだろう。いや、間違ってないのかも知れない。
黙ったまま突っ立っているムーコを横目で見る。
まだまだ、自分の理想とする演技とは程遠い。
Ave Mujicaに加入した時の頃よりも、まだ。
でもこれが、今のアタシに出来る全力の抵抗なんだ。
「べっつに〜? 結局、サキコが頷かなきゃ意味ないし」
アタシは、女神様気取りのサキコへ顔を向けた。
サキコは全く臆すること無く、涼し気な表情でアタシを見つめ返してきた。
視界の端でウイコがオロオロしてるのが分かる。
まあいざとなったらサキコ側につくんだろうけど、この子は。
2425/08/30(土)18:38:17No.1348354107+
「ねえ、サキコ?」
「…問題ないと、言っておきましょう」
透かした物言いに腹が立つ。
同い年のはずなのに上から目線で、なにからなにまで上に立つ人間ですって態度で。
「台本はこのままで進めます。各々、騎士という新たな役をきちんと作るように」
そのはずのなのに。
アタシは頬が緩みそうになるのを、必死に我慢してた。
鳥肌が立ってないか、さっと二の腕を台本で隠す。
「台本変えるなんて脅しておいて、もうちょっとなんかあってもいいんじゃない?」
ニヤついてしまいそうになるのを、挑発的な笑みで覆い隠した。
正直、別にこれ以上言葉なんてほしくなかったけど。
「もとより、にゃむには出来ると考えて書きましたの。出来て当然のことですわ」
「…ああそう」
さらりと言い返されて、アタシはもうなにも言えなくなってしまった。
2525/08/30(土)18:38:31No.1348354171+
ぷい、と顔を逸らすと、ムーコと目があった。
サキコ以上に涼しげというか、人形みたいに静謐な瞳がじっとアタシを見る。
「よかったね」
なにか言い返そうと口を開いて、けどなにも浮かばなくなって。
アタシはぐっと口を閉じるしかなかった。
全然嬉しくない。これっぽっちも。本当に。
「祐天寺さん、顔が赤くなってますね」
「あっ…あ〜、海鈴ちゃん、その、そういうことは言わないほうが…」
「私なりに正直に言ったまでですが」
「正直すぎるのも、良くはない」
「…テキトーよりは良いじゃないですか」
「海鈴は極端ですわ」
ああもう、好き勝手言って。
顔の熱さがスッと引いていくのを感じる。
「ちょっと、アタシ別に赤くなってないけど。変なこと言わないでもらえます〜?」
2625/08/30(土)18:38:45 おわりNo.1348354249+
胸の内側にある達成感を見ないふりしようとして。
今くらいは味わっても良いんじゃないかって、同時に思ってしまう。
けどメンバーに悟られるのは癪だから、アタシは軽口を叩く。
ここがアタシの居場所だなんて、そう思いたくないから。

でも…今夜はおかーちゃんに電話しようかな。
聞いて欲しか話もあるし!
2725/08/30(土)18:39:26 No.1348354459+
アニメムジカ12話と13話の間あたりのお話です
2825/08/30(土)18:52:03No.1348358401+
最高です👏
にゃむちが苦しみつつもイップスを乗り越える本編のアツい補間ですね
2925/08/30(土)18:54:02No.1348358980+
ホントに読んでそうなレス…
3025/08/30(土)19:07:04No.1348362886+
にゃむはできる女だよ
3125/08/30(土)19:07:13No.1348362948+
長いの久しぶりに見た気がする
3225/08/30(土)19:58:42No.1348380632+
麦は大量生産されるわなんならその辺に野生で生えてる植物だけど一点物の才能ばかりのムジカ面子にそれでも食らいつこうとする姿がいいよね
メタな音楽面ではあんた一番才能あるでしょとは思うけど

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